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薬物事件と冤罪救済の最前線を担う弁護士たち

公開日: 2025/09/26
更新日: 2025/12/28 13:57

薬物事件と冤罪救済の最前線を担う弁護士たち

冤罪や誤逮捕から身を守るために

薬物事件は、一度逮捕されれば人生が一変する可能性がある重大な刑事事件です。
しかし現実には、不起訴を含めた無実の人が誤って逮捕される冤罪(社会的冤罪)事件も少なくありません。事件に巻き込まれた場合には、仕事や人間関係、生活基盤に深刻な影響を及ぼし、人生そのものが大きく揺らぎます。

この記事では、冤罪事件に関心のある方や、自分や家族が突然巻き込まれたときのために、薬物冤罪事件に強い弁護士の選び方と、実際に活躍している著名な刑事弁護士のプロフィールを紹介します。(※ 当法人では、個別事件について弁護士をご紹介することはできません。

また本記事と併せて提供する無償ツールは、市民が落ち着いて事実を整理し、適法な権利を正しく行使することで、誤解に起因する不要な対立や往復確認を減らし、警察等の現場・組織に余計な業務負担をかけないことも目的としています。


冤罪の危険性と薬物事件の実態

日本における「冤罪」と不起訴の位置づけ

日本の刑事司法において冤罪とは、通常「裁判で有罪判決を受けた後に誤りが判明したケース」を指します。
そのため、不起訴処分となった人々は公式には冤罪に含まれません。しかし現実には、不起訴であっても逮捕・送致の時点で「犯罪者」と同様に扱われ、社会的信用を失い、職場や家庭生活に深刻な影響を受けるケースが少なくありません。

「社会的冤罪」リスクが高い日本

検察が受理する全被疑者のうち、日本では 約68%が不起訴であり、これは 米国や英国の2〜3倍にあたる水準です。

しかも、この割合は増加しており、 30年前には30%台にとどまっていました。

さらに、逮捕段階から実名が報道されやすいことや、不起訴でも職を失うケースが多いことが重なり、 不起訴処分となっても、「冤罪と同等の社会的被害」を受けやすい構造になっています。

一方で英国では起訴前に氏名を公表しないことが警察とメディアの運用として定められており(出典: College of Policing “Media relations”)、 また雇用実務では、刑事捜査中の「自宅待機(suspension)」は原則、有給かつ中立的措置とされ、 賃金・福利厚生や年次有給休暇の権利も継続するのが一般的運用とガイダンスされています(出典: GOV.UK “Disciplinary procedures and action at work – suspension”)。

人口比による冤罪リスクの比較

人口 社会的冤罪リスク割合/年 説明 出典
日本 約1億2,500万人 約0.4%
(約50万人が不起訴)
不起訴を広義の冤罪とみなし算出。 検察統計調査(法務省)
米国(カリフォルニア州) 約3,953万人 約0.136%
(約50,000人が無罪判決と推定)
無罪判決を狭義の冤罪として算出。司法取引が含まれるため有罪率は高い。 California Judicial Council
英国 約6,180万人 約0.123%
(75,945人が無罪判決)
無罪判決を狭義の冤罪として算出。 CPS(Crown Prosecution Service)

薬物事件に巻き込まれると冤罪リスクが高まる理由

薬物事件は、証拠が物質(薬物)や鑑定結果に大きく依存します。しかし、押収された物が本当に違法薬物かどうかの鑑定には誤りが生じることもあります。さらに、警察や検察の捜査方針によっては自白偏重になり、取調べの中で精神的に追い詰められて虚偽の供述をしてしまうケースもあります。

刑事事件の裁判までの流れ

事件が発生すると、流れは大きく次のようになります。

  1. 逮捕
  2. 勾留
  3. 起訴または不起訴
  4. 裁判(起訴された場合)

特に逮捕から起訴までの期間は非常に重要で、この時期の行動が今後を左右するため、すぐに弁護士へ連絡することが不可欠です。日本では、この間に長期間の勾留が認められ、取り調べが続きます。そのため誤った自白が誘発されやすく、結果として冤罪リスクが高まります。 一方、アメリカでは、長期拘束は憲法違反とされ、例外的です。また、要請があれば弁護士の同席も認められるため、取り調べは数時間と短く運用されます。


薬物冤罪事件に対応する保険が存在しない現実

さまざまなリスクに備える保険サービスが普及している一方で、薬物冤罪事件を補償する保険サービスは現状存在しません
そのため、万が一逮捕されてしまった場合には、家族が突然高額な弁護士費用を負担せざるを得ないという大きなリスクがあります。
この背景からも、事件発生時に迅速かつ適切に専門の弁護士へ依頼することの重要性が強調されます。

薬物事件の全体像

区分件数/人数(2024年)
刑法犯 検挙件数(総数) 約29万件
薬物事犯 検挙人員(総数) 13,462人
覚醒剤事犯 6,124人
大麻事犯 6,078人
その他(MDMA・コカイン等) 1,260人

出典:警察庁長官官房 令和6年の犯罪情勢 / 日本薬物対策協会(DAPC) / 警察庁 組織犯罪情勢R6


薬物事件の構造的リスク:国内外の事例から学ぶ

薬物事件は、国内外を問わず誤逮捕や冤罪が発生しやすい構造を持っています。 その背景には、現場での簡易検査の信頼性不足、証拠の鑑定ミス、逮捕要件の運用の曖昧さなど、共通の問題があります。 ここでは、国内外の実例からそのリスクを掘り下げます。

国内事例

尿検査陽性による覚醒剤事件(不起訴)

  • 概要:被疑者の尿から覚醒剤反応が出たが、所持品・自宅・職場から証拠が発見されず、弁護側が「誤摂取の可能性」を立証し不起訴に。 出典:刑事事件弁護士カタログ
  • 分析:尿陽性のみで逮捕・勾留されるリスク。科学的反証が不可欠。

アーティスト・なみちえさん大麻事件(不起訴)

  • 概要:渋谷での職務質問で車内から見つかった葉片を簡易検査し陽性と判断され逮捕。しかし正式鑑定では大麻成分検出されず不起訴。東京地裁は逮捕・留置を違法と認定し、東京都に賠償命令。 出典:朝日新聞ナタリー
  • 分析:簡易検査の判定基準が曖昧で、犯罪の明白性を欠く逮捕が行われた典型例。

佐賀県警科捜研の捏造事件

  • 概要:佐賀県警は、科学捜査研究所の技術職員が実施していないDNA型鑑定を実施したように装う虚偽報告や、鑑定書類の日付改ざんなどの不正をしていたと発表。
    2017年6月〜2024年10月の7年超で130件の不正を確認。13件については虚偽有印公文書作成・同行使、証拠隠滅等の疑いで書類送検。出典:共同通信(佐賀県警発表)
  • 分析:鑑定の実施・記録・保管の内部統制が機能不全だと、捜査・勾留・起訴の判断の根拠が揺らぐ。再鑑定の制度化第三者機関による監査チェック体制の二重化・ログ管理など、科学捜査の透明性・追跡可能性を高める仕組みが不可欠。

サントリー・新浪剛史さんの薬物疑惑(非陽性確認)

  • 概要:サントリーHDの前会長・新浪剛史氏が、購入した大麻由来成分のサプリをきっかけに薬物疑惑で家宅捜索と尿検査を受けました。結果は非陽性で、違法薬物も見つかっていません。 出典:ダイヤモンド東洋経済週刊文春
  • 分析 :結果的に問題は確認されなかったものの、「疑い」がかかった時点で報道され社会的な影響が大きく出てしまったこの事例は、簡易検査や疑惑の段階でも評判被害が生じるリスクを示しています。

海外事例

米国・フィールドテストの誤陽性

  • 概要:米ペンシルベニア大学クアトローネセンターの調査では、現場薬物検査で誤陽性が多発し、誤逮捕の原因に。 出典:law.upenn.edu
  • 分析:簡易検査の不正確さは国境を超える共通問題。

マサチューセッツ州・証拠捏造事件(アニー・ドゥーキャン)

  • 概要:州の検査員が証拠を捏造し、2万件以上の薬物事件が取り下げられた。 出典:AxiosWikipedia
  • 分析:鑑定体制の不透明さとチェック機能不足が招いた大規模冤罪。

ヒューストン・警察官の虚偽捜索令状事件

  • 概要:元警察官が虚偽の捜索令状で薬物捜索を行い、複数の無実の市民を逮捕・死亡させた。 出典:AP News
  • 分析:法執行機関の不正と証拠手続きの不備が冤罪を生む構造。

構造的課題

課題 国内 海外 共通点
簡易検査の信頼性不足 大麻簡易検査の誤反応 フィールドテストの誤陽性 科学的検証前の逮捕リスク
鑑定体制の不備 尿検査陽性のみで勾留 証拠捏造 鑑定の透明性欠如
法手続きの不正 職務質問・逮捕の要件不備 虚偽の捜索令状 権限乱用による誤逮捕
弁護アクセスの遅れ 勾留初期の接見制限 公選弁護人の遅延 初動防御権行使の困難

近年の動向:大麻関連の逮捕増加と専門家不足

近年、大麻に関連する逮捕事件が増加傾向にあります。大麻は実務上、覚醒剤や合成薬物とひとくくりに「薬物事件」として処理される場面が多く、社会的偏見の強さも相まって、個々の事案の特性(成分、用途、摂取形態、依存性評価など)が十分に検討されないまま身柄拘束や処分が進むリスクがあります。

厚生労働省の検討会資料(2022年6月29日、大麻規制検討小委員会)では、CBD(カンナビジオール)が人工胃液中でTHC(テトラヒドロカンナビノール)に変換され得る可能性が指摘されています。そして、THCは日本において麻薬及び向精神薬取締法で厳格に規制されている成分であるため、たとえ意図せずCBDから変換された場合であっても、体内や製品から検出されれば違法行為の疑いをかけられる可能性がある点に注意が必要です。つまり、この科学的知見は、法的評価や捜査対応の複雑さを一層高めています。

一方で、偏見や制度上の慣行の影響から、大麻事案に通暁し、科学的鑑定や違法捜査の論点に精通した「理解のある専門家」はまだ多いとは言えません。そのため、初動段階から適切な弁護士を迅速に選任し、事実関係・鑑定手続・捜査適法性を的確に点検することが一層重要になっています。


事例から見える課題

  1. 簡易鑑定の誤差・信頼性不足 → 現場検査は予備的手段に過ぎず、本鑑定までの間の身柄拘束は冤罪リスクを増大させる。
  2. 規制物質の定義の曖昧さ → 新規薬物や類似成分での誤認が多発。
  3. 逮捕・勾留の長期化 → 無罪でも社会的信用や生活基盤が回復困難。
  4. 弁護士アクセスの遅れ → 初動の防御権行使が困難になり、誤解された供述が固定化される。

逮捕されたらやるべき3つのこと

黙秘権の行使

不用意な発言は誤解による不利な証拠になり得ます。黙秘権は法律で保障された権利です。

家族・知人からすぐに弁護士へ連絡

逮捕された本人は連絡できないため、周囲の人が即行動することが重要です。

供述調書への署名・押印は慎重に

内容を確認せずに署名すると、後から覆すのは極めて困難です。


冤罪被害者の声と教訓

実際に冤罪を経験した人の多くが口を揃えるのは、 「もっと早く弁護士に相談すべきだった」という後悔です。
無罪判決を得るまでに何年もかかる場合があり、その間の精神的・経済的負担は計り知れません。


薬物事件に強い弁護士を選ぶポイント

刑事弁護の経験と実績

刑事事件は民事事件とは全く異なるルールとスピード感があります。薬物事件に強い弁護士は、過去の不起訴や無罪の実績を持ち、検察との交渉や証拠の争い方を熟知しています。

薬物事件特有の知識

薬物の種類、鑑定方法、捜査手法に精通しているかどうかは非常に重要です。例えば覚醒剤事件と大麻事件では、捜査方法や立証のポイントが異なります。

不起訴を含む広義の冤罪事件での逆転事例

過去に冤罪事件を覆した経験がある弁護士は、証拠の矛盾や捜査の不当性を突く力があります。

迅速な接見と情報共有

被疑者との接見は時間との勝負です。連絡が遅れる弁護士は避けるべきです。


注目の薬物事件に強い弁護士

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ここでは、薬物事件や冤罪事件で高い評価を得ている弁護士のプロフィールを紹介します。(弁護士登録年順)

薬物事件弁護の重鎮
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丸井 英弘 弁護士(故人)

1970年代から最前線で刑事事件を担ってきた、まさに薬物事件弁護の重鎮。 とりわけ大麻取締法違反事件においては、不起訴を数多く勝ち取り、弁護士としての矜持を体現してきました。豊富な経験と確かな実績が、依頼者の最後の砦となっていました。※2025年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。

  • 経歴 国際基督教大学卒業後、東京教育大学(現・筑波大学)を経て1974年に弁護士登録(第二東京弁護士会)。武蔵野共同法律事務所に所属し、長年にわたり刑事事件、特に大麻取締法違反事件を中心に活動 (麻と人類文化)。
  • 専門性・実績 大麻取締法違反事件などの薬物事件において、不起訴の獲得実績多数。科学的鑑定や捜査手法の検証を重視した弁護方針で知られ、社会的注目を集めた大藪大麻裁判などでも中心的役割を担いました。

お問い合わせはこちら

刑事政策・犯罪学の専門家
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石塚 伸一 弁護士

刑事法学者としても知られ、刑事政策・犯罪学の専門家です。
冤罪事件の救済や司法制度の改革にも積極的に関わっており、薬物事件の防御戦略においても学術的な裏付けがあります。長年にわたり大学教育と実務を橋渡しし、冤罪研究や薬物事件の制度改革を牽引してきました。

  • 経歴 1954年東京都生まれ。中央大学大学院博士後期課程退学(法学修士)、九州大学法務研究科にて博士(法学)を取得。 北九州市立大学法学部教授等を経て、龍谷大学法科大学院・法学部教授として教鞭を執り、現在は龍谷大学名誉教授。2004年に弁護士登録(第二東京弁護士会)。
  • 研究分野・活動 刑事法学全般が専門で、受刑者の権利、死刑問題、薬物政策、ドラッグ・コート、刑事司法情報の公開、生命倫理など幅広いテーマを手がける研究者でもあります (NII Research and Development)。 また、刑事司法の記録と閲覧、死刑制度、新たな薬物政策といったテーマで編著も多数(リサーチマップ)。

お問い合わせはこちら

新世代を代表する刑事弁護人
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髙野 傑 弁護士

幅広い視野と人権感覚を備えた、新世代を代表する刑事弁護人。 裁判員裁判や重大事件にも数多く携わり、違法な取調べや捜査の矛盾を法廷で明らかにしてきました。依頼者の人権を守り抜く姿勢は高く評価され、厚い信頼と尊敬を集めています。

  • 経歴 法政大学法学部卒業後、中央大学法科大学院を経て2009年に弁護士登録(第二東京弁護士会)。 現在は、早稲田リーガルコモンズ法律事務所のパートナー弁護士として活動 。
  • 専門性・実績 刑事事件全般に精通し、特に裁判員裁判や起訴前の弁護に豊富な実績があります。示談交渉や被害者対応にも細やかな配慮を行うスタイルが評価されています。 また、2022年から司法研修所の刑事弁護教官を務め、後進の育成にも尽力した。 (早稲田リーガルコモンズ法律事務所)。 「違法な取り調べの実態を法廷で明らかにする」コラムなど、取調べの録音・録画公開などにも関わっています。

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冤罪後の被害回復は民事弁護士の領域

刑事事件と民事事件の原則的な分割

日本の司法制度では、手続が大きく 刑事事件民事事件 に分かれています。

  • 刑事事件:国家が犯罪を追及して処罰を求める手続き
  • 民事事件:私人同士、または私人と国家との間の権利義務関係を解決する手続き

冤罪が発生した場合、刑事裁判で「無罪」や「不起訴」となれば処罰を免れますが、それだけでは逮捕・勾留によって受けた損害の回復には至りません。損害賠償の問題は、別途民事事件の領域で扱われます。


損害賠償の位置づけ

冤罪被害者が被る損害には、以下のようなものがあります。

  • 精神的苦痛:不当逮捕・勾留に伴う心身のダメージ
  • 社会的損失:職場の解雇、信用の失墜、家族関係の破綻など
  • 経済的負担:弁護士費用、交通費、休業による逸失利益

これらを補償するために利用されるのが、

  • 国家賠償法1条(違法な公権力行使による損害賠償)
  • 刑事補償法(不当な勾留・抑留に対する補償)

です。ここで重要なのは、刑事弁護士の役割は「無罪を勝ち取ること」であり、損害賠償請求の専門的な訴訟活動は通常の業務範囲外という点です。


実例:なみちえさんの違法逮捕と賠償命令

2021年、音楽活動を行っていたアーティスト・なみちえさんは、東京都渋谷区での職務質問中に大麻所持を疑われ、現場での簡易検査の結果を根拠に逮捕・勾留されました。 しかし正式鑑定では大麻成分は検出されず、不起訴に。東京地裁は後に、この逮捕・勾留について「犯罪の明白性を欠き違法」と判断し、東京都に対し約33万円の賠償を命じました

このケースは、刑事事件で不起訴となっても、被害回復のためには別途民事訴訟による国家賠償請求が必要であることを示す代表的な例です。


民事事件弁護士の役割

損害賠償を勝ち取るためには、民事訴訟の専門知識が必要になります。 具体的には、次のような活動を担います。

  • 国家賠償請求訴訟の訴状作成
  • 慰謝料額や逸失利益など、損害範囲の算定
  • 判例や学説を踏まえた立証活動
  • 裁判所での主張・和解交渉

このように、冤罪後の損害回復では民事事件に強い弁護士のノウハウが不可欠です。


不起訴理由による対応の違い

刑事事件で不起訴処分となった場合、その不起訴理由によって、その後の損害賠償請求の可能性や戦略が大きく変わります。検察官が下す不起訴処分には複数の類型があり、それぞれ意味が異なります。

主な不起訴理由と損害賠償請求の可能性

不起訴理由 意味 犯罪事実の認定 国家賠償請求 加害者への損害賠償
嫌疑なし 犯罪の嫌疑が全くない、または被疑者が犯人でないことが明白 × ×
嫌疑不十分 犯罪の疑いはあるが、証拠が不十分で起訴できない
起訴猶予 犯罪事実は認められるが、情状により起訴を見送る ×
罪とならず 正当防衛など、違法性が阻却される × ×
告訴取消し 告訴権者が告訴を取り下げた(親告罪の場合) ×

「嫌疑なし」での不起訴:国家賠償請求の最有力ケース

嫌疑なしとは、「犯罪の嫌疑が全くない」または「被疑者が犯人ではないことが明白」という判断です。これは実質的に無実を認めた処分と言えます。

この場合、逮捕・勾留時点で「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条)が欠けていた可能性が高く、逮捕・勾留自体が違法と認定される余地があります。

  • 国家賠償請求:可能性が高い(逮捕・勾留の違法性を主張)
  • 加害者への請求:犯罪事実がないため原則不可
  • 民事弁護士の役割:捜査の違法性を立証し、勾留日数に応じた慰謝料(1日1万円〜2万円が相場)を請求

例:アリバイが明白なのに逮捕された、別人が犯人と早期に判明していたのに釈放しなかった など

「嫌疑不十分」での不起訴:証拠次第で両方の請求が可能

嫌疑不十分は、「犯罪の疑いはあるが証拠が足りない」という処分です。刑事事件では「合理的な疑いを超える証明」が必要ですが、民事では「証拠の優越(50%以上の蓋然性)」で足りるため、民事では立証できる可能性があります。

  • 国家賠償請求:捜査過程に違法行為(違法な取調べ、証拠捏造など)があれば可能
  • 加害者への請求:民事の証明基準で不法行為を立証できれば可能
  • 民事弁護士の役割:刑事記録を精査し、民事訴訟で再度事実認定を争う

例:目撃証言はあるが物証がない、状況証拠は揃っているが決定的証拠がない など

「起訴猶予」での不起訴:加害者への請求に限定

起訴猶予は、「犯罪事実は認められるが、初犯・反省・示談成立などの事情により起訴しない」という処分です。検察が犯罪事実を認めているため、逮捕・捜査は適法と判断されます。

  • 国家賠償請求:原則として不可(犯罪事実が認められているため)
  • 加害者への請求:可能性が高い(不法行為責任は成立)
  • 民事弁護士の役割:加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起

例:暴行事件で初犯のため起訴猶予となったが、被害者は治療費・慰謝料を請求できる

「罪とならず」「告訴取消し」:国家賠償は困難

罪とならず(正当防衛、緊急避難など)の場合、行為自体は適法と判断されているため、国家賠償も加害者への賠償も原則として認められません。

告訴取消しの場合、犯罪事実は認められているため国家賠償は困難ですが、加害者への民事請求は可能です(告訴の有無と民事責任は別問題)。

実務上の重要ポイント

不起訴処分告知書を必ず取得する

不起訴理由は、検察庁で「不起訴処分告知書」を請求することで確認できます。この書類は、その後の損害賠償請求の戦略を立てる上で極めて重要です。

民事の消滅時効に注意

不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年、または不法行為時から20年で時効消滅します。不起訴処分後は速やかに民事弁護士に相談しましょう。


実務的な流れ

冤罪事件では、次のような二段階で弁護が進みます。

  1. 刑事弁護士によって無罪判決・不起訴を獲得する
  2. その結果を証拠として、民事弁護士に依頼し国家賠償請求を行う
  3. 民事弁護士が戦略を立て、損害賠償額を認めさせる(和解か判決かを判断)

つまり、刑事弁護士と民事弁護士は役割分担をしており、冤罪被害者が本当の意味で回復を果たすためには両者の連携が欠かせません。


誤逮捕予防ガイドツールのご案内

誤逮捕や冤罪は、ある日突然あなたや家族を襲うかもしれません。だからこそ、「いざ」という時に備えておくことが重要です。そこで当サイトでは、読者の皆さまが即行動できるよう、無償ツールを2つ用意しました。

なぜ無償配布するのか(現場の負担を増やさないために)

私たちの狙いは、市民側の理解不足や不安から生じる誤解を減らし、関係機関とのコミュニケーションを円滑にすることです。これにより、警察・留置施設・検察・医療機関等の不要な業務負担を回避し、手続の適正化に寄与します。

  • 情報の整然提示:家族ノートの様式で、説明の重複・齟齬を抑制
  • 適法性のセルフ点検:チェックリストで誤解や不必要な衝突を回避
  • 連絡窓口の明確化:緊急連絡・役割分担を事前定義し、たらい回し防止
  • 端末内完結&PDF:個人情報を外部送信せず、必要時だけ紙で共有

「違法捜査チェックリスト」対話式ツール

  • シナリオ別(職務質問・所持品検査/家宅捜索/採尿・尿検査/端末解析/車両捜索/任意同行)に質問が展開
  • 入力内容から留意フラグを自動抽出し、リスク度(高/中/低)と弁護士相談用の要約を生成
  • 印刷ボタンで、そのままPDFに保存可能(記録は端末内のみで、送信はしません)

▶︎ 違法捜査チェックリスト


「緊急時の家族ノート」印刷キット(A4)

全5ページをA4で印刷

  • ウォレットカード(切り取り・合言葉/緊急連絡)
  • 事件情報シート(時系列ログつき)
  • 医療情報 & 同意書雛形
  • 差し入れ・面会ルールチェックリスト
  • 面会ログ & タスクリスト
  • そのまま手書きで運用できるレイアウト。ブラウザの印刷→PDF保存にも対応

▶︎ 緊急時の家族ノート

薬物事件の誤逮捕から自由を守るために

  • 早期の弁護士選任が鍵
  • 薬物事件に強い、経験豊富な弁護士を探す
  • 黙秘権と署名拒否を適切に行使する

冤罪は誰にでも起こり得ます。もしもに備え、信頼できる刑事弁護士の連絡先を手元に置いておきましょう。
そして、不起訴を含む冤罪が解決したとしても、社会的信用や生活基盤を回復するには被害回復のための手続き(国家賠償請求や名誉回復の活動など)が重要です。

関連リンク・相談先

法曹・弁護団

冤罪救済・人権団

被害回復のための手続き・実例

学術・報道・メディア

国際・公共訴

  • Innocence Project
    NGO — DNA鑑定等による冤罪救済で著名
  • 国際連合人権理事会
    国際機関 — 自由権規約違反に関する申し立て
  • CALL4
    公共訴訟プラットフォーム — 社会課題の解決を目指す訴訟支援

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この記事を書いた人
カンナビノイドニキ
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当ディスペンサリーストアの熟練店長。これまで20年以上の大麻の旅に情熱を注いできた。スイス産に傾倒していたが、最近は合成の魅力に引き込まれ、究極のレシピを模索中。
さらに、大麻およびサイケデリックの私的使用合法化を目指す社会運動にも積極的に参加し、科学的根拠と人権の両面から啓発活動を続けている。

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