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2014年池袋暴走事件、脱法ドラッグ中に新種の合成カンナビノイド
公開日: 2024/04/15
更新日: 2025/01/15 00:29
池袋暴走事件、脱法ドラッグ中に新種の合成カンナビノイド
池袋暴走事件で押収された脱法ドラッグの薬物鑑定が進んでいますが、2種の合成カンナビノイドが特定されたようです。いずれも、昨日から施行されている最近の規制でも対象になっていない、新種の薬物だといいます。 すべての試験を終えて鑑定結果がでたのか、あるいは作業途中での見通しを発表したものかはわかりませんが、未規制薬物の特定には困難が多いといわれるなかで、思ったより早いペースで進んでいるようです。
池袋暴走 車内の植物片に大麻に似た作用、警視庁検出 JR池袋駅近くで乗用車が暴走し8人が死傷した事件で、車内で見つかった植物片には大麻に似た幻覚作用があることが11日までに、警視庁交通捜査課への取材で分かった。薬事法で販売や所持、使用が禁止されている指定薬物には該当しない「脱法ハーブ」という。 交通捜査課によると、鑑定で検出されたのは「5F-AMB」「AB-CHMINACA」という2種類の成分。いずれも合成カンナビノイドと呼ばれる物質で、大麻に似た幻覚や幻聴を引き起こし、依存性があるという。 運転していた名倉佳司容疑者(37)=自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)容疑で送検=は「現場近くの店でハーブを1袋5000円で購入した」と供述している。同課はさらに成分を分析し、運転に与えた影響を調べる。 日本経済新聞 2014/7/11 13:46
弁護士小森榮の薬物問題ノート報道された通称名を手掛かりに調べてみたら、この2物質は実によく似たタイプの薬物でした。 最近の脱法ドラッグは、複数の薬物が配合される例が増えていますが、このようによく似たものがダブルで使われたとすると、複合作用によって、作用がさらに強化されることにならないでしょうか。今後、分析の詳細がわかったうえで専門家による解説などがあると、脱法ドラッグのもたらす危険性について、私たちも具体的に理解できると思います。 今後の情報に期待することにしましょう。
●細部を変化させながら市場に居座る脱法ドラッグの実態 さて、私も自分なりに調べてみたところ、次々と細部を変化させながら、規制に対抗して生き延びる脱法ドラッグの実態について、また少しだけ理解を進めることができました。
■5F-AMB
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2013年4月に指定薬物に指定されたAB-PINACAのアナログ。AB-PINACAは、わが国では、2012年夏ころから脱法ドラッグとして流通し始め、これが規制された後は、化学構造の良く似たADB-PINACA、5F-AB-PINACAが代替として市場に出現しましたが、今年6月にいずれも指定薬物に指定され、7月11日から施行されています。 今回、流通品から5F-AMBが検出されたわけですが、先行のADB-PINACA、5F-AB-PINACAの規制が施行されるのに備えて、業者はすでに新たな物質に切り替えていたことを示しています。 5F-AMBの作用や危険性について信頼できるデータはみつかりませんが、化学構造のよく似たAB-PINACAが、JWH-122に匹敵するようなCB1受容体に対する親和性を示すと報告されているところから(2013年2月15日 薬事・食品衛生審議会 指定薬物部会議事録)、かなり強い作用をもった薬物だと思われます。
■AB-CHMINACA
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こちらは、2012年12月に指定薬物になったAB-FUBINACAのアナログです。元になったAB-FUBINACA は、もともとはファイザー社でCB1受容体作動薬として開発されたものですが、最近になって脱法ドラッグ成分として使われ始めました。 AB-FUBINACA は、我が国では2012年下期ころから脱法ドラッグの成分として出回りましたが、同年12月に指定薬物に指定されました。その後、市場に現れたのは、化学構造がよく似たADB-FUBINACAで、これは2013年春に指定薬物になっています。 今回検出されたAB- CHMINACAが出回り始めた時期はわかりませんが、7月11日施行の規制の対象にならない成分として、現在の市場に出回っているものです。 AB- CHMINACAの作用や危険性について信頼できるデータはみつかりませんが、化学構造のよく似たAB-FUBINACA は試験に基づく計算によるとΔ9-THCと比べ約46倍の親和性を有すると報告され、またその後現れたADB-FUBINACAはΔ9-THCと比べて、約114倍の親和性を有するとされているところから(2012年10月16日、及び2013年2月15日 薬事・食品衛生審議会 指定薬物部会議事録)、これらと同じように強い作用をもつと思われます。
■規制に対応して素早く変化
わが国で脱法ハーブの市場が急速に拡大していた2012年ころ、市場には、新型の合成カンナビノイドが次々に登場していましたが、そのなかのひとつに、AB-FUBINACAがありました。 前述したように、これはファイザー社が開発し、実用化されないままになっていた合成カンナビノイドで、脱法ドラッグのブームが起きてから、改めて過去の科学文献が掘り起こされて、脱法ドラッグ成分に転用されたものです。ところが、ひとたび脱法ドラッグ市場での利用が始まると、たちまちのうちに、その化学構造の細部を変化させたアナログが、脱法ドラッグ専用として生み出され、次々と流通し始めたのです。これら一群の物質を仮に「AB-FUBINACA系物質」と呼ぶことにします。 下の図は、わが国の脱法ドラッグ市場に現れたAB-FUBINACA系物質を理解するために、これまでの規制の記録を遡って作ってみたものです。2012年夏ごろ、初めてAB-FUBINACAが確認されてから現在まで、2年ほどの間に、よく似た化学構造を持つアナログ物質6種が出回ってすでに規制されましたが、それでもなお、現在も5F-AMBやAB-CHMINACAが流通しているのです。 なお、私は化学に関しては全くの素人で構造式を書くことができないので、ここで使った5F-AMB、AB-CHMINACAの構造式はインターネットで探し出した物を貼り付けました。他と表記の仕方が違うので、類似性が分かりにくいかもしれませんが、じっくり見比べると、その構造がそっくりなことがわかります。
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↑AB-FUBINACA系物質の流通実態(小森榮作成)
ところで、一群の物質の元になったAB-FUBINACAが、脱法ドラッグ製品中に確認されたという最初の報告は、日本の研究者から発信されました。AB-PINACAの場合も同じです。 最近、わが国での規制導入の迅速化はめざましく、脱法ドラッグ市場に現れた新種の薬物を諸外国に先駆けて規制下に収めるようになってきました。これは脱法ドラッグ対策にとって大きな前進です。
ところが、規制導入の迅速化に対応して、脱法ドラッグ側の対応も迅速化しているという現実があります。規制に備えて成分を新種に切り替えながら、次から次へ新製品を売り出し、イタチごっこはますます加速してしまいました。 その結果、いまや日本の脱法ドラッグ市場は、世界でも最も新しいタイプの薬物がデビューする場になってきたようです。
そこで新たな困難も生まれています。現在の流通品に使われている薬物に関して、世界のどこにも情報がないということが多くなってきたのです。脱法ドラッグが原因となった重大事件や中毒事故が発生した場合には、原因薬物に関する情報がない、原因薬物を特定することが難しい、といった困難に直面することになります。 今回の池袋暴走事件では、原因薬物の特定作業が、思ったより早いペースで進んでいますが、その裏には、科捜研をあげての奮闘努力があるのでしょう。関係者の努力がしのばれます。
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